看取り士の資格を取得して最初に看取ったのは父だった。日本看取り士会柴田代表に習った通りに実行してみることを決意。しかしそれは初体験であり、慣例にないことであり、勇気のいることでもあった。一つ目は、終末の点滴が浮腫や痰などを生み出し、逆に苦しめることもあるというもの。看病・介護する家族としては、もはや食べられなくなった家族に対して、最後まで栄養補給してあげたいと願う。何もしなければ、衰弱して加速的に弱っていくと不安になるから。
亡くなる2週間前、在宅医に申し出た。「点滴、はずしてください」。在宅医から言われた。「ほんとうにいいのですか? 数日後になると思いますよ」。父のエンディングノートにも延命治療拒否の意思が記されていたので、すべての医療行為を中止した。すると、明らかに痰が減り、体が一回り小さくなった。弱ったように見えたが、浮腫傾向が軽減されたとわかった。呼吸も穏やかになり、自然な営みになったと感じた。在宅医・訪問看護師も驚く延命となった。
5月12日午後7時、自発呼吸で穏やかに昇天した。二つ目に習ったことは、すぐに火葬せずに、自宅で一緒に過ごすというもの。家族全員で遺体に触れる「看取りの作法」の実践。しかも、ドライアイスを使わないということで、葬儀屋にその意向を伝えると「せめてお腹だけでも」と言われ不思議がられた。
家族全員、看取り士の私を信じて、看取りの作法で寄り添った。
自らの死を持って、看取り士としての自信を持たせてくれた父。
長男もこの荘厳な体験から、翌年「看取り士」となった。